スーっコロン、コロンと

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その出来事は、まるでスロー再生で見ているようだった。

いつものように屋根に上がって、アンテナを立てる位置を測定していた。
簡易的に接続したアンテナで屋根の上を行ったり来たり。
ここだという、最適ポジションをマークしたら、屋根馬を支線を張って
固定。 この時、測定器はいつも落下防止のため、屋根馬に引っ掛けて置くのですが、この時は油断してしまった。

支線を張りに屋根の端っこに行っていた時だった。 

瓦屋根にホコリがたまっていたからだろう。 スーっと測定器が横滑りを
しながら、滑り台を滑るように・・・

『マズイ!』屋根の端っこで、すぐにでも駆けつけたいのだが、測定器と
自分の身を両天秤に掛け、自分の身を助ける事にした。 

『止まってくれ!』心の中で叫ぶ願いを裏腹に、測定器は横滑りから、コロン、コロンと転がり始め、そのスピードは勢いを増していた。 
もはや絶望、瞬時に約20万もする測定器の過去の様々な思い出が浮かんだ。
元を取っただろうか?そうだ十分元を取った、惜しいけど新しいのを買うと
するか。そんな事まで思った。

ここで望みが一つ出てきた。

測定したそのままなので、同軸コードがつながっていた。
大丈夫、これを押さえておけば、ギリギリで止まるはずだ。
少しの安堵感で、これからこの測定器で、いくら稼げるだろう。
そんな勘定を描いてしまった。

ところが。。

接続を容易にする為、ネジで固定する部分をプッシュ式で挿しただけ
の状態だった。 

雨どいのところで、一瞬止まったと思ったら、無残にも、この接続部分が
はずれ、測定器は放物線を描いて落下してしまった。 

ガタン、ボコっつ。 一回どこかにぶつかったような音がした。 

頭の中には、液晶表示部分が割れ、電源すら入らない測定器が映っていた。
新しいのはやっぱり、LCN3だよなぁ そんな事を思いながら、屋根を
下りて、測定器を拾いにいった。 

そして・・・

良かったぁ。
ポケットに紙やら説明書やらが入っていて、ココが下になって落ちた
ようで、クッション効果で測定器は無事だった。 

また活躍してくれる測定器を抱きかかえ、私は作業を続けた。